斉藤 幸大さん(さいとう・こうだい)さん 1994年、東京都生まれ。堀越高校、国士舘大学でサッカー部に所属。大学卒業後、イタリアに渡り、イタリアとスイスのフットサルチームで3年間プレー。2020年に帰国し、現在はインテルアカデミージャパンU12のコーチ。東京理科大のサッカー部も指導している。 |
ーーいつごろからサッカーを始めましたか。
小学校5年生からです。自宅の近くの少年団に入りました。実は、幼稚園のころから、モータースポーツ(ポケットバイク)にはまり、中学生までは、サッカーとバイクの両方をやっていました。
中学生のときは、600ccのバイクに乗っていました。中学生はもちろん運転免許証は取れません。でも、特別なライセンスを取れば、サーキット内に限って、バイクに乗れるんですよ。鈴鹿の4時間耐久レースで、中学2年生のときに、優勝しました。スポンサーは、自動車メーカーのスズキでした。
ーーなぜ、サッカーに傾いたのですか。
子供のころはバイクへの恐怖心がなかったのですが、中学生までに12回も骨折して、少し恐怖心も出てきたのでしょうか。気がついたら、サッカーのほうが面白いと思うようになっていました。。
ーープロを目指していましたか。
プロになりたいと思っていましたね。中学時代は、地元の公立中学の部活でしたが、FC東京のスクールにも通っていて、サッカー強豪の堀越高校のスカウトの目に止まり、サッカー推薦で堀越高校に進学することができました。
ーー高校や大学時代はどんな選手で、どのようなポジションでしたか。
子供のころからずっとFWでした。高校時代はFWで前からがんがんプレスをかけたり、味方がボールを持ったら、最終ラインの裏に抜けてアタックするようなFWでした。
大学もサッカー推薦で、関東リーグ1部の国士舘大学に進むことができました。200人以上の部員がいました。
大学に入ってから、SAQ(Speed、 Agility、 Quickness)を重視して、体を鍛えることを心がけました。フィジカルで勝負するFWになったと思います。
大学4年からは、社会人チームに入って、本格的にフットサルを始めました。フットサルは子供のころから、遊びではやっていたのですが、きちんとやってみると、プレーに必要になってくる要素がサッカーと異なっていて、学ぶものが多いと感じました。
ーーフットサルとサッカーは、どう違うのでしょうか。
フットサルのほうがサッカーよりも、瞬時に求められる判断力が問われると思います。脳により負荷がかかるというか。あと、ボールに触れる回数がサッカーよりも多いところが楽しいです。ダッシュの繰り返しなので、瞬発力も必要です。フットサルでもヘディングはありますが、サッカーほどは重視されないですね。
ーー大学卒業後、イタリアに行かれたのは、なぜですか。
海外で生活してみたいという夢がありました。子供のころから憧れていたバイクのレーサーの多くはイタリア人でしたし、イタリア製のバイクメーカーも好きでした。アジアに行くことも考えたのですが、結局、イタリアを選びました。
イタリアのエージェントに連絡を取り、チームを紹介してもらいました。それぞれのチームで、2週間ぐらい練習に参加して、合格すれば内定をもらう形でした。
ーーいくつか内定をもらったのでしょうか。
3チームから内定をもらいましたが、ローマとナポリの間にある、テラチーナというチームを選びました。家賃をチームが払ってくれ、給料もいただきました。そういう条件面も大事でしたが、海沿いですばらしい景色だったのも、テラチーナに決めた大きな理由でした。
ーーその後は、どうされたのですか?
2年目は違うイタリアのチームに行きました。テラチーナより条件面は良くなかったですが、セリアAのチームで、イタリア代表やイングランド代表選手がチームメートにいました。対戦したチームには、ブラジル代表の選手などもいて、自分の成長につながったと思います。
3年目は、スイスのジュネーブのフットサルチームで半年間プレーしました。ブラジル人5人と共同生活をしていました。生活費は出してもらいましたが、物価が高すぎました。
ーー日本に戻られたのはなぜですか?
もっと欧州でプレーすることはできましたが、やはり経済的に厳しいということがありました。このままでは、サッカーでキャリアを積み上げて行くのは難しいと判断して、日本に戻ってきました。
(元日本代表の)長友(佑都)選手が在籍して有名になったイタリアのインテルの日本支部(インテルアカデミー・ジャパン)で、イタリア語の通訳兼コーチとして採用してもらうことができました。
イタリアでの経験を生かしたり、語学の能力を伸ばせる環境であることが良かったです。
ーー日本で指導する際に気をつけていることは何でしょうか。
自分が育った日本のサッカーは、主に基礎練習と反復練習をコーチによってやらされているケースが多かったと思います。ミスをして怒られることは、しょっちゅうありましたが、なぜ怒られたのかがわからないことも多かったです。
つまり、サッカーがどういう要素で成り立っていて、課題を解決するにはどうすればよいか、自分の中で理解できないままでプレーしていたと思います。
試合の中でも、「強く行け!」「ミスするな!」というような単純な指示が多かった気がします。その指示に従って試合に勝てる場合はありますが、それは本質的な成長にはつながりにくいと思います。
自分は、いま、そのような指導をしないように心がけています。
たとえば、ある状況で、ボールを取られてしまったとします。従来型の指導だと、そこで「ミスするな」で終わってしまうことも多い。
でも、大事なのは、ボールをとられたかとられなかったという「結果」ではなく、ボールをとられる前に、どんな「プロセス」だったか振り返ることが大事だと思います。
ボールが来るかどうかを予測して、きちんと準備していたのか、単にぼーっとしていたのか。体の向きはどうだったのか。周りは見えていたのか。
たとえボールを取られてしまったとしても、よい準備ができていたなら、怒るのではなく、むしろそのチャレンジを褒めるべきかもしれないですよね。
ーー指導中、怒鳴ったり、怒ったりすることはないんでしょうか。
怒鳴ることはまずないですね。怒鳴るコーチは、自分でもどう指導してよいかわからないから怒鳴っているケースも多いと思うんですよね。
指導していく上で大切なのは、指導の「意図」があるか、という点だと思います。
仮に怒ったとしても、どうすべきだったのかという意図を、選手に説明できるのならよいと思うんです。
インテルアカデミーは、目先の勝利にこだわるのではなく、3年間の計画を立てて、選手が成長するための「プロセス」に焦点を当てて活動しています。
基礎練習、反復練習は大事ですが、日本では、単純なパス練習をやっているケースも多い。しかし、実際の試合では、敵のプレッシャーもあるし、全く違う環境の中でパスをしなければなりません。インテルの練習では、試合と同じような状況をつくりつつ、パス練習をするようにしています。
環境や状況が大事で、常に実際の試合に近い感覚で、視覚に刺激を与えつつ、練習をしていくことが大事だと思います。
ーー将来の目標や夢はありますか?
日本で試合をみていると、指導現場は、まだまだ「ミスするな!」とか「何やってんだ!」みたいな指導が多いと思います。指導者がそれだと、選手も楽しくはないと思うんですよね。
そうではなくて、練習の時から試合を意識して意図をはっきりさせる指導、サッカーの楽しさがしっかりと伝えられるような指導が広がっていってほしいですし、自分もその一助を担いたいと思っています。
(2023年6月30日)